CASE STUDY

若い世代に安心して農業を引き継いでいける体制づくりを目指して

つくり手サステナブル生産支援

農業組合法人のきの郷

経営面積:150ha
作物:水稲、大豆、キャベツ、菜種、麦、そば、トマト、いちご、ぶどうなど

安来市は島根県の東端に位置し、北には中海、南には中国山地を臨む、自然豊かな場所。
出雲国風土記によると、スサノオノミコトがこの地に来て「心が安らかになった」と言ったことから「安来」と命名されたと伝えられています。
そんな雄大な土地で農業を営んでいるのが「農業組合法人のきの郷」(以下、「のきの郷」)です。
本日はのきの郷代表山本氏、専務理事河津氏に組合方針や今後の展望、ヤンマーマルシェの生産支援サービスを導入するに至った経緯などを伺いました。

経営の安定化多角化を図るため農業組合法人設立へ

安来市では大正から昭和初期にかけて約12aに整備された圃場で水稲を中心に耕作していましたが、時代の流れとともに農業従事者が減少、高齢化するなどこれまでの手法で農業を継続するのが難しくなっていました。そんななか圃場整備事業が採択され、平成22年5月に能義地区営農組合を設立、さらに平成25年に農業経営の安定化多角化を図るため「農業組合法人のきの郷」に移行しました。
のきの郷では地域農業の維持・発展に貢献することを基本方針とし、土地利用型農業に依存するだけでなく、菜種油の販売やトロ箱を利用したトマト栽培など、地域の活性化と新たな就労の場の提供に向け様々なチャレンジに取り組んでいます。

はじめに、のきの郷の方針・ビジョンを伺えますか?―
河津さん:
法人を設立して以降は中期・長期計画を立てたうえで様々な取り組みを進めており、水稲の他、トマト、キャベツ、イチゴ、ぶどうなど徐々に栽培品目を増やしてきた。農家の集まりではダメだと感じており、若い人たちを雇用し、法人として将来に引き継いでいきたいと考えている。
新たに取り組みたいと考えているのは、直売センターの建設。農業の一番の欠点は、自分たちで売価を決められないこと。自ら農作物に付加価値を付け販売していきたいと考えているが、具体的な計画は今後の中期計画に盛り込んでいく予定。

山本さん:
のきの郷には今従業員が7名おり、そのうち若手従業員が4名いる。彼らに担当の作物をもたせ、任せる経営をしている。彼らの将来を考えると、人前できちんと話ができなければいけないし、売り込みもできないといけない。「ものづくりは人づくり」であり、全ての基礎となるのはやっぱり「人」。そういった観点からもきちんと教育を行っていきたいと考えている。

河津さん:
今までは各農家の経験で作ってしまい、新しい栽培管理手法が受け入れ難かった。そこを若い人が挑戦してくれている。逆にそういった挑戦をしないと、将来はないと考えている。スマート農業はスマホなどを使い農業機械やデータを操作することが多いので若い人の順応性が高いと思われ、そういった意味でも若い方にどんどん挑戦していただきたい。

山本さん:
経理については今まではどんぶり勘定でやっていたが、法人経営はそれだと成り立たない。今作っているものの生産原価、儲かっているのか否か把握したうえ対応を検討していく必要があり、現在経営システムの構築を進めている。単に収支がわかるだけではなく、分析ができないといけない。経費を抑えつつ、品質を上げるにはどうしたらよいか、具体的な施策を考えられる人材の教育も進めていきたい。
今は先行投資でお金がかかる時期ではあるが、将来に向けた投資を行っているということで、若い人に夢を持ってほしいと考えている。夢を見ないと前に進めない。のきの郷で働く若手には、農業経営を学び次世代をけん引していく存在になってほしいと考えている。

農業の一番の課題は売る時期まで売価が定まらないこと

課題に感じていることはあるか?—
山本さん:
地域農業の活性化を基本方針としているため、地域との関係性も重要。組合員さんとのコミュニケーションを図るため、2ヶ月に1回広報誌を制作、WEBサイト でも配信している。
この地域の将来を担う、組合員さんの孫など若い方がもっと作業に参加してくれると、より嬉しい。地域の若者は就職のために地域を離れる人が多い。逆に都市部より、農業がやりたいとやってくる人もいる。 私たちは単に作業員が欲しくて人を雇っているのではない。将来のこの地域を背負って立つ経営者を求めている。そういった点からも地域の若い方には期待している。

河津さん:
先程も申し上げたが、農業の最大の課題は売る時期まで売価が定まらないことだと感じている。農業は全てが先行投資。予め売価が予測できれば、資材や人員配置もそれに応じた計画が立てられるので有り難い。
2021年は昨年に続き米の価格が下落するものと予想されている。米の需要量は新型コロナウイルスによる影響で2020年6月までの1年間に21万トン減少、今年度も同様に需要減となる可能性が高い。
昨今はお米に頼らない経営を目指してはいるものの、それでも収入源の8割はお米。米1俵あたりの単価が下がると収入も大きく下がってしまう。常時従業員を雇っていると、計画的に農業経営を行うことが重要であり、そういった観点からも契約栽培の仕組みはとても有り難い。

ヤンマーマルシェでは販路拡大や収量安定などの課題を抱える生産者と安定的に契約栽培を実施したいと考える商社などの流通業者に対し、双方の課題を解決する「YANMAR MARCHÉ PARTNER (生産支援サービス)」を提供しています。こちらのサービスは原則、播種前に価格条件を提示、規格内の作物は全量買取しています。契約後は収量・品質向上のための生育調査・栽培支援サービスなども行っており、のきの郷では昨年よりこの生産支援サービスをご利用いただいております。

河津さん:
通常の販売ルートであれば、毎年夏頃まで売価の目処が立たずドキドキしている。ヤンマーマルシェのサービスでは売価が予めわかるというのが一番有り難い。事業の安定性、持続可能性という観点からも、このシステムはとてもよいと感じている。

山本さん:
検査体制、物流などまだ課題は残るが、売価が定まっているのと、生産し収穫したものを全量買取してくれるのは助かる。ただ、今後は農家もモノを売る力を強化していかなければならないと感じている。待っているのではなく、足で稼ぐ手法を検討していかなければならない。また自分たちだけでやるのではなく、販売をうまくやっている企業と連携するなど、様々な選択肢を検討していきたい。

ものづくりは人づくり、人づくりは夢づくり

のきの郷のモットーは「ものづくりは人づくり、人づくりは夢づくり」だと伺いました。
良い人がいるから良いものができる。夢があるから良い人ができる。
取材途中、写真撮影に応じてくれた若い社員はみなとても元気で、エネルギーに満ちあふれていました。
山本さん、河津さんの夢が、のきの郷のメンバーに伝わっているのでしょう。
冒頭に記載した直売所の他、いちごやぶどうの観光農園など、多角化経営のプランは様々あるよう。
3年後、5年後、のきの郷はどんな展望を遂げているでしょうか?今から楽しみです。