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Premium Marché 特選素材 2月は「柑橘」

野菜

いよかん、ポンカン、せとか、はるか、文旦、清見etc. 2月から3月にかけて、柑橘類は毎週のように異なる品種が登場する出荷ラッシュの季節を迎えます。その丸くて愛らしい形、フレッシュな香り、たっぷりと蓄えられたみずみずしい果汁で、今年も私たちを楽しませてくれるでしょう。

2月のプレミアムマルシェが注目したのは、愛媛で育つ柑橘類と、柑橘を愛してやまない方たち。抜群の剪定技術で良質なみかんを育てる「梅村農園」、みかんを中心にして人と町と自然をつなぐ「無茶々園」、宇和島産の柑橘類が勢ぞろいする「宇和島青果市場」を訪れました。

味の決め手は父親譲りの剪定技術。良質なみかんの里「梅村農園」

市場で3倍の値がついた梅村農園のみかん

口に入れた瞬間にパッと広がる果汁と、その爽やかな香り。おいしいみかんを食べたとき、私たちは幸せな気分も一緒に味わうことができます。味に定評のある梅村農園のみかんはその品質を認められ、他のみかんと比べて約3倍の値がついた年もあるのだとか。このおいしさを育んだのは恵まれた土地の条件に加えて、父親から受け継がれた抜群の剪定(せんてい)技術だったのです。

おいしいみかんが育つための条件がそろった土地

梅村農園があるのは、宇和島市の中心部から少し南西方向に下がった津島と呼ばれる地域。農園の広さは8.7ヘクタール、つまり東京ドーム約2個分もの敷地で10,000本弱の柑橘類が育てられています。その品種は、温州みかんや不知火(デコポン)、河内晩柑、愛媛果試28号など15種類。それぞれ旬が異なるため、7~8月以外は毎月何かの収穫を行っているのだとか。

「すり鉢状の土地は太陽が良く当たり、台風の風は当たりにくい。また、土壌が若干荒いから水はけがよい。とにかく土地の条件がすばらしいから、状況がいいときはA級ランクのみかんが95%の割合で収穫できる」と話すのは、梅村農園のオーナー梅村健則さん。

作り手の“剪定センス”が味に直結する

柑橘類は苗を植えてから7年ほどの育成期間を経て、8年目から質の良い実をつけるようになります。その後手入れをきちんとすることで、50年ほど収穫し続けることができるのだとか。繰り返しおいしいみかんを実らせるためにも、毎年2~5月には、不要な枝を切り落とし生育を促すための剪定作業を行います。この作業がうまくいけば、1年の作業のうち8割は終わったとも言えるほどなのだそう。

みかんの味を決めるのは太陽や土壌といった自然条件に加えて、生産者の“剪定センス”が直結している、と話す梅村さん。

柑橘類の木は手を加えずにいると逆三角形に上へ広がって成長してしまうのを、剪定で三角形に整えてやる必要があります。また、おいしいみかんは赤道面(図参照)にしか成らないと言われていますが、木の中にも陽が当たるようしっかり剪定してやることによって、木全体においしいみかんが成るのだそう。

「親父が愛媛でもトップの剪定技術をもっていて、受け継ぎたいとしっかり見て覚えたし、年中剪定のことだけ考えている。剪定において、宇和島では誰にも負けないよ」と力強く話す梅村さん。

自然相手なので何があるか分からない

一度植えると50年収穫できるとはいえ、みかんが実を結ぶのは年にたった一度。収穫までの間に台風が来て実が落ちたり、霜や雪害で売り物にならなくなってしまったりすることも。数年前には、田んぼを荒らした後のカメムシが柑橘山へ大量に押し寄せ、果汁を吸われてしまったこともあるのだとか。一年かけて育てたみかんをしっかり出荷するために、霜を防ぐファンを導入したり、網をかけたり、農薬を試したりと、年中苦労が絶えないのだそう。また、良い剪定ができてもおいしいみかんができたかどうかは正直食べてみないとわからないため、「収穫時期にはワクワクすると言うみかん農家もいるけれど、俺は心配で毎年胃が痛いよ」と、苦笑いの梅村さん。

店頭でできるだけおいしいみかんを選ぶには

生育状態のチェックとして毎日みかんを食べている梅村さんに、おいしいみかんを選ぶためのコツを教えてもらいました。

まず1つめは「サイズが大きすぎないこと」。店頭でSMLとサイズが選べるならば、Mサイズは味の良いことが多いのだとか(生産者さんが好んで食べるのは、市場にあまり出回っていないSSサイズだそう)。2つめは「皮が薄いこと」、そして3つめは「ヘタが小さく、ヘタの色は緑より、黄色・オレンジがかっていること」だそう。ちなみに、梅村さんがおいしいと思うみかんは「ヤマモモの味や香りに近いもの」なのだとか。

若い世代にみかんで「食べられる」ようになって欲しい

「これからは若い研修生に2ヘクタールほどまかせて、必要な機械も貸して、みかん畑の経営をさせてみようと思っている。梅村農園でのアルバイトと自分の畑で収入を得ることで、できれば年収600万円ほどを目指してもらいたい。それだけあれば公務員なみの稼ぎになるので」と話す梅村さん。

最近、梅村農園では50年前に植えられた木を新しい苗に植え替えたのだとか。その苗が8年後に初めての収穫を迎え、更には50年後も収穫し続けるためにも、宇和島で新しい世代のみかん農家がどんどん育ってゆくことの必要性を強く感じました。

みかんを中心にして人と町と自然をつなぐ「無茶々園」

全国から視察が来る農家グループ「無茶々園」

みかんの有機栽培に取り組む若手農業後継者グループとして、1974年に立ち上がった「無茶々園」。40年以上もの時を重ね、愛媛県西予市明浜町で一緒に取り組む生産者は80軒以上、栽培面積は100ヘクタールを超える規模に成長しました。2013年には福祉事業の立ち上げ、2016年には事務所を廃校となった旧狩江小学校内に移転するなど、農業の枠を超え地域に根付いた活動を行っています。

みかんづくりに最適な「3つの太陽」

無茶々園があるのは、愛媛県西予市の宇和海に面した明浜町。ここには、みかんづくりに最適な「3つの太陽」が揃っています。1つ目は段々畑のおかげで木にまんべんなく当たるお天道様の光、2つ目は海からの照り返し、そして3つ目は白い石灰岩でできた石垣からの反射光です。

段々畑は、食糧難の時代に芋や麦を育てる中、少しでも農地を広く使うために先人たちが自分たちで石灰岩を積み上げて作り上げたもの。戦後、愛媛県が推奨するみかんへと切り替えますが、県内で柑橘農家が増えすぎてしまったため、自分たちでお金を稼ぐためにどうすればいいかと考えた末、有機農業を始めることにしたのだとか。

人にも自然にも無理のない栽培方針

ここ無茶々園では、80軒以上の農家がみかんの有機栽培に取り組んでいます。有機栽培にすることで見た目は多少悪くなってはしまいますが、外見より味の良さを選んでもらえる一般の消費者や生協、自然食品店での取り扱いが年々増えています。

できるだけ自然のまま育てるのが理想ですが、病害虫の発生などがあり、止むを得ず農薬を使用することも。その際は、総会で決められた“無茶々園の栽培方針”に沿った農薬のみを使うことが決められています。

※日本農林規格(JAS)の有機栽培で使用が認められるものでも、無茶々園で使ってよいものはさらに絞り込まれています。
※愛媛県の一般的な柑橘栽培では農薬の使用が18回までは指針とされていますが、無茶々園では3回、多くても5回ほどしか使用しません。

みかんを中心にして人と町をつなぐ役割に

柑橘類の生産管理や販売、営業、事務作業などを行うのが、株式会社地域法人無茶々園です。廃校となった旧狩江小学校を活用し、黒板やランドセル入れをそのまま事務所の備品として使うなど、ユニークな経営スタイルが世の注目を集めています。

ここでは注文を受け付けたり、各生産者さんよりインターネット経由で送られる作業日誌や直接問い合わせるなどの方法で情報収集し、柑橘の生産管理を行ったりする作業が行われています。「実は、事務局のスタッフの8割は、無茶々園の活動に惹かれて県外から明浜町にやってきたんです」と話してくれたのは、販売担当の岩下紗矢香さん(彼女も鹿児島出身だそう)。

ユニークな活動は他にもたくさんあります。1999年に設立された「ファーマーズユニオン天歩塾」では、新規就農希望者や明浜町へのIターン希望者のために研修と農場運営を実施。「15年以上前から大々的に“農業研修やっています!”とPRしている農家はなかったですよね」と話す岩下さん。実際に、滋賀県から新規就農者として明浜へやってきて独立している方もいらっしゃるのだとか。最近では、ベトナムやフィリピンからの外国人実習生も積極的に受け入れています。このように、全く地縁がなかった人をも温かく受け入れてくれる明浜町の雰囲気に惹かれ、新しい人材が新たに根付き始めています。

山と海とはもっと仲良くやっていくべき

宇和海に面し、山と海が密接に繋がる明浜町。かつて無意識に農薬を使ってしまっていた時代は、雨が降ると農薬が海に流れ落ち、その影響でプランクトンが減少してしまったこともあるのだとか。その後無茶々園の活動が始まり、できるだけ自然のまま農薬を使わない栽培方針に切り替えてからは海の状態が良くなり、蛸がたくさんとれるような生態系へと変わったのだそう。

「山と海は繋がっているから、もっと協力しあっていかなければならない」と気づいた無茶々園では、みかんの有機栽培だけではなく、山づくり・海づくりを通して地域の価値がさらに高まるよう、合成洗剤の使用を控えるなどの生活改善にも取り組んでいます。

コスメをきっかけにして若い人にも無茶々園を広めたい

無茶々園では、活動を長く続けていくために若い世代の新しい価値観を加えて何か新しいことをはじめたいと、柑橘の果皮から丁寧に抽出した精油を使ったオリジナルコスメの販売もスタート。きっかけは、「みかんの皮を使ってコスメも作れるんじゃない?」という事務局の男性スタッフの奥さまのアイデアなのだそう。

オーガニックコスメに特化した化粧品製造会社を探して交渉し、柑橘の花の蜜を集めたはちみつや真珠貝からとれるパールシウムなどの原料も使って商品を次々と開発。「yaetoco」ブランドとして販売を始めると、香りの良さと安心安全な成分、そしておしゃれなパッケージがバイヤーの目に留まり、大手雑貨店やセレクトショップでの取り扱いも始まりました。最近では、「yaetoco」の商品ラベルを見て無茶々園のことを知ってくれる若い女性も増えているのだとか。

全国の企業・自治体が次々と視察に訪れる無茶々園。そのきっかけは廃校を利用するユニークな経営スタイルであったり、Iターンを積極的に受け入れる地域の懐の深さであったりとさまざまですが、その全てに明浜のみかんを知ってほしい、有機栽培のおいしさを知ってほしいという想いが込められています。ぜひあなたも、無茶々園で育てられた極上のみかんや加工食品の数々を味わってみてください。

取り扱いの8割が柑橘類。南予の恵みが集結した宇和島青果市場

信頼の“宇和島ブランド”を守り続ける

皮をむいて口にいれるまで、実際にこのみかんがおいしいかどうかはわからないもの。だからこそ、柑橘類選びにおいて産地はとても重要であり、信頼できる宇和島産を求める方は多いのではないでしょうか。「みかんといえば宇和島」そんな宇和島ブランドを長年守り続けている企業のひとつが、地方卸売市場 宇和島青果市場です。

全国へ出荷される宇和島ブランドのみかんたち

宇和島の中心地から車で10分もかからないところにある宇和島青果市場。朝7:30から、野菜・果物の順に競りが行われ、ばれいしょやキャベツ、白菜などの野菜が2割ほど、残りの8割は南予一円で収穫される柑橘類が取引されています。

青果を求めてやってくるのは、いわゆる八百屋のような業者や、選果場(計測・仕分けをし、箱や袋に詰める)の業者。宇和島産みかんの市場ニーズはとても高く、県外向けとしても数多く出荷されています。

柑橘類が入ったケース1杯の重さは約17~20キロ

市場の至る所に見られる、高く積み上げられた緑色のケース。この中には、出荷される時を待つ柑橘類がぎっしりと詰められています。サイズの大きいポンカンなら約17キロ、小さい温州みかんであれば約20キロの重さになるのだとか。また、パレット(物流に用いるすのこ状の荷役台)一枚に対し、5段×10面の計50杯がひと固まりとして積み上げられています。天井に届きそうなほど高く積み上げられたケース全てに同じ柑橘類が満たされている様子は、まさに圧巻です。

旬となるお彼岸前には18種類の柑橘類が登場

どの果物にも旬があるように、柑橘類にも細かな旬の違いがあります。宇和島青果市場の家藤達幸さんによると、「1月はポンカン、いよかん、甘平(かんぺい)、通年のレモンの取り扱いが主流。2月に入ると品種が増えはじめ、3月のお彼岸前に調べてみたら両手で足りないほど、18種類もの品種が出荷されていました」とのこと。

かつてのスーパーで買うことができた「みかん」といえば、温州みかん(南柑20号、いわゆる冬みかん)やはっさく、いよかん、そして海外産のグレープフルーツなどがほとんどでした。しかし、ここ10年ほど前より皮が薄くて糖度の高い柑橘が次々と登場。種がなく食べやすい品種も増えています。甘平、清見、せとか、なつみ、愛媛果試28号などは人気も高く、3月の青果市場はとても活気にあふれる柑橘ラッシュを迎えるのです。

柑橘農家が何よりも恐れている「雪害」

温暖なイメージのある四国に属する愛媛で「まさか、雪は降らないでしょ」なんてイメージをお持ちの方は多いのではないでしょうか。しかし、年に数回は雪が降りますし、プレミアムマルシェが取材に訪れた1月末日も大雪に見舞われました。この雪こそが、柑橘にとっては大敵なのです。

柑橘農家における雪害(せつがい)とは、果実がやけどしたような柔らかい状態になってしまうこと。雪が長続きして果実が凍ってしまうと果汁が無くなり、中がスカスカになって、手塩にかけて育ててきた柑橘の市場価値が一瞬で無くなってしまうのです。

よって柑橘農家は雪が降ると急いで収穫し、貯蔵庫で保管します。柑橘類は寒暖差をつけてあげると色付きやすい性質があるため、ストーブなどで温度を上げて色付け作業を行う農家もあるのだとか。また、貯蔵庫で寝かせることで酸味が抜けておいしくなるので、取ってすぐ出荷とはならないのも、柑橘類の特徴です。

もらって嬉しい宇和島産の贈り物

贈答品としても人気の宇和島みかん。「まるでゼリーのような食感」と話題の愛媛果試28号は、12月のお歳暮シーズンと旬が重なるため毎年人気を博しています。また、皮が薄くて成長途中で割れやすく、指に穴が開くほどの棘があり収穫にも手間がかかる甘平(写真)は、驚くほどの甘さで希少高級みかんとしても知名度を上げています。そして「酸がない」と評判のせとかは、一度食べると味の良さに衝撃を受け多くの人がリピーターになるのだそう。

「みかんは同じ土地でも木によって味が違うから、割って食べてみないとわからないよ。でも、宇和島は相対的に味がいいね」と太鼓判を押してくださったのは、偶然隣に居合わせた地域の方。「みかんといえば宇和島」というブランドがしっかりと守られ続けているのは、おいしい柑橘を世に送り出し続けている宇和島青果市場のたゆまぬ努力と、地域の方々のあふれんばかりの“柑橘愛”があるからなのでしょう。

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