CROSS TALK

「美味しさのターミナル」からはじまる、
「食の聖地」をめざす旅

  • ASTERISCO
    監修
    小山薫堂
  • ヤンマーマルシェ株式会社
    代表取締役社長
    山岡照幸
  • ASTERISCO
    プロデューサー
    奥野義幸
  • ヤンマーマルシェ株式会社代表取締役社長山岡照幸
  • ASTERISCO
    監修
    小山薫堂
  • ASTERISCOプロデューサー奥野義幸

2023年1月に東京・八重洲に誕生した『YANMAR MARCHÉ TOKYO(ヤンマーマルシェトーキョー)』。ここは、生産者から料理家、生活者まで、食が大好きな人たちをつなぐ場であり、レストラン、物販、イベントスペースといったさまざまな機能を兼ね備えた施設だ。そのコンセプトは「美味しさのターミナル」。これからこの場所でどんな物語が生まれ、どんな奇跡が起きていくのか。仕掛け人の3人が、『YANMAR MARCHÉ TOKYO』の今後の可能性について語り合った。

プロフィール

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山岡照幸
ヤンマーマルシェ株式会社代表取締役社⻑。大学卒業後、2005年にヤンマーに入社。トヨタ自動車株式会社出向、Yanmar America Corporation工場長、ヤンマーアグリジャパン株式会社北海道カンパニー営業企画部部長などを経て、現職。

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奥野義幸
Brianza Group代表・オーナーシェフ。米国の大学卒業後、イタリア料理の世界に興味を持ち、渡伊。イタリア全州にて各地の料理を学び、ミシュラン1つ星・2つ星を取得している店舗含む計8店舗にて経験を積む。『YANMAR MARCHÉ TOKYO』内のレストラン『ASTERISCO』プロデューサー。

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小山薫堂
放送作家。脚本家。京都芸術大学副学長。次世代の若手料理人を発掘するコンペティション「RED-U35」の総合プロデューサーを務め、2025年の日本国際博覧会では食のテーマ事業プロデューサーに就任。京都の老舗料亭「下鴨茶寮」の主人でもある。『YANMAR MARCHÉ TOKYO』の企画・コンセプトから関わり、『ASTERISCO』の監修を担当。

東京駅の目の前にそびえ立つ「美味しさのターミナル」

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イメージ写真山岡

ヤンマーは、農業や漁業などの産業機械の製造・販売をする企業として、これまで全国の生産者の方々と交流し、さまざまな想いをお聴きしてきました。そのなかで特に多いのが、自分が栽培・収穫したものがどう使われ、どう食べているのか知りたい、という声でした。卸売市場まで届けたら、あとは生産物がどう流通していくのかわからないのが寂しい、と。
そこで、食材を介して生産者から料理家、生活者がつながる場として『YANMAR MARCHÈ TOKYO』を創ることにしました。ここにはレストラン『ASTERISCO(アステリスコ)』もあれば、イベントや物販用のスペースもある。アイデア次第で柔軟に使える施設にしています。

イメージ写真奥野

山岡さんがおっしゃっている生産者さんのお話は、僕がこれまで感じてきたこととも通じる部分があって。というのも、シェフとしてレストランで働いていると、お客さまが「美味しいね」って言ってくださることがよくあるんですが、実は、ちょっと切っただけとか、僕はそこまで手を加えていない場合も多い。つまり、食材自体の力なんですよね。だからこそ、お客さまの「美味しい」という声が、料理人だけではなく、生産者さんに直接届けばいいなとずっと思っていたんです。『ASTERISCO』は、生産者の想いを料理家を通してお客さまに届け、またお客さまの「美味しい」という声を生産者に伝えていく、そんなレストランにしていきたいと思っています。

イメージ写真山岡

薫堂さんは、私たちのそんな想いを受けてこの施設のコンセプトを考えてくださったんですよね。

イメージ写真小山

この施設のことを考えたときに最初に浮かんだ言葉が、「美味しさのターミナル」でした。この建物の目の前には、東京駅という日本一のターミナルがあります。そういう何ものにも代えがたい磁力のようなものがここにはあって、全国の「美味しい」が吸い寄せられてくるような、そんな象徴的な場所になるんじゃないかな、と。東京駅という毎日100万人近くの人が行き交う場所で、いろんな食材や人が交差する。新しい物語がどんどん生まれていきそうなワクワク感が、ここにはありますよね。

美味しいものに印をつけたくなる場『ASTERISCO』

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イメージ写真山岡

レストランの『ASTERISCO』という名前も薫堂さんが考えてくださいました。

イメージ写真小山

店名に「東京」ってついた方がいいかと思ったり、「ターミナル」っていうワードを入れた方がいいかなとか、いろいろ考えたんです。散々思いを巡らせてから、そもそもこのレストランの原点はなんだろうと考えてみると、山岡さんが「まずはお米に特化した施設にしたい」とおっしゃっていたなと思って。そして、奥野さんのベースはイタリアンですよね。それで、「※米印」をイタリア語でどう表現するのか調べたら、「*ASTERISCO」だったんです。

イメージ写真山岡

奥野さんと僕の二人でアイデアを出し合っていたりもしたんだけど、薫堂さんから『ASTERISCO』という言葉を聞いたときに、しっくりきたんです。

イメージ写真奥野

僕もすぐに「それだ!」と思いましたね。もともと「あ」で始まる名前が好きなんです。息子も二人とも「あ」がつく名前です。だから余計に『ASTERISCO』という響きが気に入ってしまって。

イメージ写真小山

ストレートすぎる気もしたのですが、これしかないなと思って。なぜなら、アスタリスクって大切なものや心に留めておきたいものの前につけるマークですし、地図上でも大切な場所にアスタリスクをつけたりする。だから、『ASTERISCO』という店名には、このレストランの核である米を表すと同時に、米に限らずすべての美味しいものに印をつけたくなるようなお店、という意味を込めました。

生産者に会うと、食材への愛着が湧き、レシピが生まれる

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イメージ写真小山

ところで、山岡さんが「まずは米に特化したい」と思った理由をあらためて教えていただけますか。

イメージ写真山岡

私の先代が農家出身ということもあり、農業を盛り上げたいという強い思いがあるんです。現在、日本の農家さんの約半数が稲作に関わっていらっしゃいます。だから、農業を盛り上げるには、まずは米に注目していくべきだと思ったんです。
一言でお米と言っても、産地の土壌、気候や栽培する人、栽培方法によって味も大きく異ります。そういった特徴に、一人でも多くの人に気づいてほしいなと思ったんです。奥野さんと一緒に米の生産地を訪ねたときに、「桜の香りがする」とおっしゃっていて、やはりシェフの表現は一味違うなと感動したんです。

イメージ写真奥野

テロワール(土地)が生み出す味ですよね。今回、『ASTERISCO』の開店準備として食材探訪の旅をしたのですが、そのうちの何ヵ所かは山岡さんと一緒に巡らせていただきました。

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どんな場所に行かれたんですか?

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茨城、鳥取、…あとは大分や熊本にも行きました。大分から熊本へは飛行機ではなく車で移動したので結構時間がかかったのですが、山道を通ったりしたことによって九州という土地の魅力をダイレクトに感じられてよかったです。

イメージ写真山岡

移動時間は合計で8〜10時間くらいになりましたが、車中ではずっと、どの食材をどう料理したら美味しいかっていう話をしましたよね。

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やっぱり、生産者さんに会って、生産物にかける熱い思いをお聞きしたり、情熱に触れたりすると、その食材で料理してみたいと強く思うし、レシピが浮かんでくるんですよね。

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イメージ写真小山

僕の故郷である熊本の天草も行ってくださったそうですね。

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熊本地鶏の天草大王を見たりもしましたが、塩も素晴らしかった。「あまくさンソルト」。天草諸島は有明海、八代海、東シナ海といった3つの海に囲まれているんだけど、そこで作る塩です。一般に流通している塩ってパウダー状だったり、粒の大きさを均一に整えていたりしますよね。でも、天然の塩というのは本来小さい粒もあれば大きな粒もあって、生産地に行くとその状態を見ることができる。そこで奥野さんが「不揃いなのがいい」とおっしゃっていたのが、とても印象的でした。

イメージ写真奥野

結晶のままの方が魅力的なんじゃないかなと思って。結晶で仕入れられないか生産者の方に相談しました。

イメージ写真小山

直接会ったことで新しい商品が生まれたんですね。食の幅が広がった、いいエピソードですね。生産者の皆さんにとっても、『YANMAR MARCHÈ TOKYO』で使われるっていうのはわかりやすくていいですよね。自分が作ったものがどこに流通するか考えたとき、漠然と「東京に行く」というより、「東京駅前に行く」っていうほうがイメージしやすい。

イメージ写真山岡

あと、ほとんどの生産者さんが「人生で1回は東京駅に行ってみたい」とおっしゃっていて。これまでもご自身の生産物が東京まで流通していたとは思うんですけど、市場を介してしまえば、どこへたどり着いているのかはわからない。でも、『YANMAR MARCHÈ TOKYO』にあるとわかれば、それを目的に東京に来ることができますからね。

イメージ写真奥野

「あまくさンソルト」の方も、「東京駅は広いから道に迷うかも」と冗談を言いながらも、すごく来たそうにしていましたよね。

イメージ写真小山

本当に来てくださったら、ここで「あまくさンソルトナイト」とかイベントもできますよね。

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その時には塩をメインにした料理も考えますし、ソルティドッグなど飲み物だって作れますよね!

イメージ写真山岡

わぁ、絶対美味しいですよ、それ。実現したいなぁ。なにより、僕がそれを食べて、飲んでみたいです。

全国の「美味しい」が集まる食の聖地へ

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イメージ写真山岡

食材巡りの旅を終えてから、奥野さんが全国の食材を使って試食会をしてくださったんですよね。どれも本当に美味しくて。ウツボってこんなふうに食べられるんだ! と衝撃を受けたり、ソーセージに練り込んだハーブの香りが本当に爽やかで素晴らしかったり、どれも最高でした。

イメージ写真奥野

『ASTERISCO』では、イタリアンの枠組みを外して自由に料理しているので、僕も楽しいんです。今までは、自分はイタリア料理の職人だからイタリアンを作らなければいけないという使命感や、義務、責務のようなものを感じていたんです。でも、「美味しさのターミナル」というコンセプトを聞き、「ここでは何をやってもいいな」って思ったんです。

イメージ写真小山

何が一番いいかって、提供方法だと思うんですよね。ワゴンに小皿料理が何種類も乗って客席まで運ばれてきて、お客さまはその中から好きなものを選べる。その名も「YUMCHA STYLE(ヤムチャスタイル)」。前菜とメインを食べたらお腹いっぱいになるのではなくて、小皿の中からこれと、これと、これって好きに選べるわけですよね。ポーションが小さいから、気になったものを全部食べることもできるかもしれない。

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イメージ写真山岡

特に好きなものはおかわりすることもできますしね。自由に楽しめる。

イメージ写真奥野

中華料理でよく、小皿で飲茶を出しますよね。アメリカ・サンフランシスコの『State Bird Provisions』というレストランでは、飲茶スタイルで洋食を小皿で出していて、それがすごく人気があるんですね。以前から面白いなと思っていたので、『ASTERISCO』にもこのスタイルを取り入れてみました。

イメージ写真小山

サーブする人も楽しいんじゃないかな。たとえば生産者さんがワゴンを押してきて「私の野菜、どうですか」って、すすめたり。

イメージ写真奥野

そうなんです。たとえば、米の生産者さんは冬季など農閑期に副業をされる方もいらっしゃいますが、そういう方達が『YANMAR MARCHÉ TOKYO』に副業をしに来てくださったらいいなと思っています。全国から食材を集めるとすれば、地域によって農閑期も端境期も異なるので、時間に余裕ができた生産者さんから順番に入れ替わりで来ていただくこともできるかもしれない。

イメージ写真小山

いいですよね。自分が栽培したものを説明する。生産者の方にとっても、実際に自分でサーブしてお客さまが食べる様子を見ることによって「こういうふうに食べるんだったら、次からはもう少し作り方を変えてみるともっと喜んでもらえるかもしれない」など、生産のヒントを得ることもできるかもしれないですしね。

イメージ写真奥野

そうしたら、ものすごく愛情が溢れるレストランになるんじゃないかなって思ってます。

イメージ写真小山

あとは、手紙を書くコーナーなんてどうですか。生産者別のポストがあって、食材を買ったり食べたりした後に、ちょっと感想を書いてポストに投函する。なかなか東京に来られない生産者もいらっしゃるので、そういう方にもちゃんと声が届く仕組みをこの施設で作っていけたらいいですよね。
それから、この施設を新作の農産物のお披露目の場にすることもできると思うんです。新しいお米や品種ができたら、生産者さんがここで記者会見をする。同じ空間にキッチンもあるしシェフもいるから、新作の米の会見の場で、炊きたてのご飯で塩むすびを振舞うこともできる。そういう食に特化した記者会見場みたいな場って、なかなかないじゃないですか。生産者さんが「新作ができたから『ASTERISCO』で発表したい」って思ってもらえるような、食の聖地になっていったらいいですね。

イメージ写真山岡

三人で話しているとどんどんアイデアが出てきますね。時間がかかったとしても、一つずつ、着実に実現していきたいなと思います。『YANMAR MARCHÉ TOKYO』が農業、漁業など食に関わるあらゆる人の舞台となり、皆さんが光り輝く場になるよう、これからいろんな仕掛けを作っていきましょう。

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